一般にエレクトロポレーション法で遺伝子導入を行う場合、キュベットと呼ばれる、二つの対になる電極を備えた容器を用います。この容器へ細胞と導入したい遺伝子が混合された液体を加え、設計された電圧を印加することにより遺伝子導入を行います。この手法では、ウイルス感染を用いないため、ほとんどの研究室で簡単に導入でき、移植に耐えうるグレードを達成できます。また、トランスフェクション試薬を用いないため、ランニングコストを低く抑えることができます。しかし、エレクトロポレーション法には細胞毒性が極めて高いと言った致命的な弱点がありました。現在、低細胞毒性を実現する物理的な遺伝子導入法の開発が急がれています。その中でも、私たちが着目したのは静電気でした。電圧や電流が高いのに電力量が低い静電気は適応細胞種の広い遺伝子導入法を確立できる可能性を持っています。ではどのように静電気を遺伝子導入時に与えるかについてみていきます。




 私たちが進める研究は、油と水が別れることを利用しています。まず、絶縁性の油を満たしたシャーレの中に細胞と核酸を混ぜた溶液を落とします。油の中で落とした液体が球状になり液滴が形成されます。次に、液滴のできた絶縁油の中へ金属製の電極を挿入します。この電極へ静電気くらいの電圧(数kV)を印加すると、液滴は初期帯電の極性に従って動き始めます。



液滴が電極まで到達すると、電極から液滴の充電が行われます。この時、図のように、初期帯電がマイナスなら、液滴表面に蓄えられた電子が電極から吸い取られ、プラスに帯電します。ちょうど、ドアノブに手を触れる瞬間パッチっとくるようなイメージです。プラスの帯電によりマイナス電極からクーロン力による引力が働き、液滴はマイナス電極へ向かいます。

マイナス電極へ液滴が到達すると、電極表面の電子が液滴表面へなだれ込み、プラス極に液滴が接触した時と同様、液滴の帯電が瞬時に変化します。以上のような理論を繰り返し液滴が往復運動します。液滴が往復運動する最中で、金属電極へ接触するたびに液滴の帯電が変化し、液滴両端間に高い電界が発生します。このようにして静電気を遺伝子導入に利用しております。

 実際にこの装置を用いて遺伝子導入を行うと、多種の細胞へ遺伝子導入できることから、この短時間の高電界により遺伝子導入が行われていると考えています。液滴エレクトロポレーション法による遺伝子導入は非常に細胞毒性が低いが、細胞毒性に対する遺伝子導入効率が高い特徴があります。

当研究室の見解では、この遺伝子導入効率の高さは、液滴という小さな反応場により遺伝子導入が行えることが、関係しているのではないかと考えております。

 現在、液滴エレクトロポレーション法の遺伝子導入効率を向上させることや適応細胞種を広げることを目的にした遺伝子導入精度向上の研究、液滴エレクトロポレーションを再生医療に応用するための研究、液滴エレクトロポレーションからヒントを得た新しい方式の低細胞毒性遺伝子導入装置の開発を行なっています。


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