研究概要 Research Outline
我々の研究室では高電界・静電気工学をベースとして、高電圧で発生させる大気圧低温プラズマや、高電界現象を利用する環境改善技術・生物応用の研究を進めています。

放電プラズマ・静電気を用いた環境改善技術

放電プラズマ・静電気の生物応用

 はじめに

 電界や大気圧プラズマを細胞や生体に作用させると、例えば細胞膜に可逆的に穴を開けて遺伝子などを人為的に細胞内に入れたり、さらに強い電圧を印加すると微生物を殺滅させたりできます。それらのメカニズムの分子・細胞レベルでの解析や、目的の効果を得るための制御方法について研究を進めています。また、電界や流体力学的な力などを組み合わせると、1分子のDNAや1個の細胞を生きた状態で観察・操作・計測できたり、静電気力により油中に微小な水滴を生成・操作できたりします。具体的には1分子のDNA上で起こる生化学反応を観察・計測したり、油のなかに水滴を生成して微小反応場として利用する技術とその応用について研究を進めています。

 大気圧低温プラズマの医療応用

  • 放電プラズマを用いた殺菌技術とそのメカニズムの解明

     医療品製造、医療現場、食品業界において殺菌技術は極めて重要である。現在、各種医療品の滅菌にはガス滅菌、放射線滅菌、高圧蒸気滅菌などが用いられているが、本研究室では放電プラズマを用いた殺菌に関する研究を行っている。放電プラズマ殺菌は高い殺菌効果を有しているため、薬品の併用を必要としないクリーンな殺菌方法である。また非滅菌物に対し十分な殺菌効果が得られない場合、薬品との併用が可能であり、これら薬品の残留物分解に対し放電プラズマは効果的に作用する。
     放電プラズマ殺菌のメカニズムは、直接的な作用として放電空間内に発生する電位差による細胞壁の破壊や電流による細胞質の変性による機能停止などが考えられており、間接的な作用としては、放電によって発生した活性酸素種あるいはオゾンによる酸化、放電によって発生した紫外線によるDNA損傷が考えられている。しかしこれらの殺菌要因について、それぞれがどの程度、殺菌に影響を与えているか明らかになっていない。現在、生化学的・分子生物学的手法を用いた放電による殺菌のメカニズムの解明も併せて行っている。

  • 大気圧低温プラズマに対する細胞応答の解析

     近年、生体や生物組織に直接照射することが可能な大気圧低温プラズマの生成技術が開発され、滅菌・殺菌や癌細胞のアポトーシス誘導に効果があるといった報告がなされている。しかし、これらの研究成果について試行錯誤的に得られたものが多く見受けられ、生体分子・細胞・組織・個体など各階層に対してプラズマ照射が及ぼす定量的な影響評価が求められてる。そこでプラズマ照射による生体高分子への影響をさまざまな方法で定量化したり、特にヒト由来の培養細胞株の細胞応答を解析したりしている。

    KW : 大気圧低温プラズマ 放電プラズマ プラズマ医療 殺菌 滅菌

     油中液滴の静電気的操作技術の開発と生命科学への応用

     電界を用いた油中液滴生成および油中閉空間で液滴を非接触駆動する技術の開発とそのバイオ応用の研究を行っている。油中液滴の非接触マニピュレーションは、少量多種を効率よく高速に解析する上での基盤技術となる。これまでに静電噴霧を応用した油中液滴生成や、外部ポンプ不要な静電気力による油中液滴操作技術について研究を進めている。またこの技術を応用した遺伝子導入法 (エレクトロポレーション)に関する研究を行っている。

     1分子DNAの観察・操作とその応用

     1分子DNAを観察する方法としては、電子顕微鏡や原子間力顕微鏡(AFM)を用いる方法などがあるが、蛍光色素でDNAに目印をつけると、蛍光顕微鏡視野内ではその目印を頼りに水溶液中のDNAを容易に観察することができる。水溶液中でDNAはブラウン運動により尺取虫のように形を変えていて、その様子をビデオカメラで捉えることが可能である。このようにして可視化した1分子DNAを解析しやすいように引き伸ばしたり、DNA (紐)の末端だけを固定したりする1分子操作を行っている。この操作は表面処理や光ピンセット、マイクロ流路など様々な要素技術を組み合わせることにより実現される。またDNAは一様に負の電荷を帯びており、静電気力による操作も可能である。1分子DNAの持つ遺伝情報の解析や下記に示すようなDNA-タンパク質間相互作用の解析において効果的な1分子操作・計測技術の検討を進めている。